なぜ「鍛える前に整える」のか?運動指導に活かすコンディショニングとトレーニングの組み立て方
はじめに
パーソナルトレーニングが身近になり、運動を始める人が増えています。
一方、現場では、痛みや身体の不調がある人、運動に慣れていない人、過去にケガをしたことがある人など、さまざまな状態の人を指導する機会があります。
そのため、運動指導では「どんなエクササイズを行うか」だけでなく、「今、この人にこの運動を行っても問題ないのか」、「その人の身体の状態に合った運動になっているのか」を見極めることが重要です。
本記事では、なぜ今、運動指導に「鍛える前に整える」というコンディショニングの視点が必要なのか。そして、安全で効果的なトレーニングにつなげるための考え方と組み立て方をわかりやすく解説します。
運動する人が増えるほど、安全な運動指導が重要になる。
経済産業省の調査によると、フィットネスクラブの年間利用者数は2000年から2022年にかけて約2倍になっています[1]。

その一方で、身体の状態に合わない運動や過度な負荷は、ケガや不調につながることがあります。
近年、国民生活センターには、パーソナルトレーニングによる筋肉の損傷や長引く筋肉痛、腱板炎などの健康被害が報告されています[2]。
運動は良薬。けど、運動はケガのリスクを伴う。
「運動は良薬」と言われるように、適切な運動は健康づくりに多くのメリットをもたらします。
しかし、どのような運動にもケガのリスクがあり、そのリスクは年齢や運動経験によっても異なります。

このように運動によるケガは、高齢者や運動初心者だけに起こるものではありませんなく、スポーツ施設を利用する若年成人でも運動に関連したケガが報告されており、年齢や運動経験にかかわらず、安全かつ適切に運動を行うことが必要です。
そのため運動指導を行う前に、まず対象者のカラダの現状を確認し、運動の種類や負荷を調整することが大切です。
コンディショニングは「リハビリ」と「筋トレ」をつなぐアプローチ
運動を行う目的は、健康のレベルによって大きく3つの段階に分けられます。

段階 | 主な目的 | アプローチ |
ジム・フィットネス | 引き締め・ボディメイク、体力向上 | 目的やニーズに対するアプローチ |
コンディショニング | 運動不足の解消、肩こり・腰痛など不調の改善 | 健康を作るためのアプローチ |
医療機関(リハビリ) | 病気やケガの回復(リハビリテーション) | 疾病や病態に基づくアプローチ |
フィットネスジムを利用する人の中には、病院を受診するほどではなくても、肩や腰の違和感、身体の硬さなどを抱えている人もいます。
こうした人に必要なのは、いきなり負荷をかけて鍛えることではなく、まず身体の状態を確認し、必要に応じて「整える」ことです。
ボディメイクやシェイプアップを目的としたパーソナルトレーニングでは、筋力トレーニングが中心になります。しかし、可動域が不足していたり、身体をうまく使えていなかったりする状態で負荷をかけると、無理な動きや代償動作が生じ、特定の部位に負担がかかることがあります。
そのため、「動ける範囲をつくる」→「その範囲を使えるようにする」→「動きに負荷をかける」という順番で、エクササイズを組み立てていくことが大切です。
ここでいう「整える」とは、単にマッサージをしたり、筋肉を緩めたりすることではありません。
その人の身体の状態を確認し、必要に応じて可動域や身体の使い方を改善し、トレーニングにつなげていくことを意味します。
「鍛える」前に、必要に応じて「整える」。そして、整った状態で「鍛える」。
これが、運動指導にコンディショニングを取り入れる基本的な考え方です。
「できない人」ではなく、「できると思っている人」を見極める

リハビリでは、「できないことを、できるようにする」ことが一つの目的になります。
「痛くて動かせない」「身体が動かしにくい」など、本人も自分ができないことをわかっている場合が多いと思います。
一方、フィットネスや筋力トレーニングで注意したいのは、本人は「できる」と思っているのに、実際にはうまくできていないケースです。
例えば、本人は問題なくしゃがめているつもりでも、股関節や足首が十分に動かず、腰や膝で動
きを補っていることがあります。
本人にその自覚がないままトレーニングを続ければ、同じ動きを繰り返し、さらに負荷を上げていくことになります。
結果として、一部の筋肉や関節に負担が集中してしまうこともあります。
運動指導では、「できる・できない」を本人の感覚だけで判断するのではなく、実際の姿勢や動きを見て、本当に適切に動けているのかを確認することが必要です。
「できないことを見つける」というより、カラダの現状を確認して「できているつもりになっている動きを見つける」。
この本人の感覚と実際の動きのズレを見つけることが、運動を始める前の身体評価では大切になります。
姿勢と動作はどのように評価するのか
では、「できているつもり」の動きをどのように見つければよいのでしょうか。
そのために行うのが、姿勢と動作の評価です。
姿勢では、身体の一部だけを見るのではなく、立った状態を前・横・後ろの3方向から確認し、身体全体のバランスや左右差などを見ていきます。

観察する方向 | 主なチェックポイント |
前方 | 両肩を結ぶ線が平行か、骨盤(左右の上前腸骨棘)の高さがそろっているか、膝のお皿がまっすぐ前を向いているか |
側方 | 頭が首の上にあるか、背中(胸椎)は軽く丸く、腰(腰椎)は軽く反っているか |
後方 | 骨盤やお尻の高さが水平か、アキレス腱とかかとを結ぶ線が一直線か |
ただし、姿勢は骨格だけでなく、年齢や職業、疲労、生活習慣など、さまざまな要因によって変化します[6]。

そのため、姿勢だけを見て身体の問題を判断することはできません。
そこで、姿勢の評価と合わせて行いたいのが動作の評価です。
動作の評価:4つの基本動作
身体の動きを確認する方法として、トレーニングの土台となる4つの基本動作を使ったセルフチェックを紹介します[7]。

基本動作 | 動きのチェックポイント | 動作と関連するトレーニング種目 |
かがむ | 立った姿勢から前屈し、手が足の指先に届くか | ヒップヒンジ(デッドリフトなど) |
あげる/のばす | 太ももが床と平行になるまで片脚を上げ、ふらつかずに立てるか | シングルレッグ(片脚種目) |
ひねる | 胸の前に棒を置き、上半身を45°以上ひねれるか | ローテーション・オーバーヘッド |
しゃがむ | 両手を前に伸ばし、かかとをつけたまま深くしゃがめるか | スクワット |
このセルフチェックでは、1回目でうまくできなかった場合、条件を変えてもう一度同じ動作を確認します。
例えば「かがむ」動作で、前屈して手が足先に届かなかったとします。そこで膝の間にクッションを挟み、お腹に軽く力を入れて、もう一度前屈します。
この条件でできるようになれば、身体の硬さだけではなく、動きをコントロールする力に課題がある可能性があります。
一方、条件を変えてもできなければ、太ももの裏などの可動性や柔軟性が不足している可能性を考えます。

このように、単に「できない」で終わらせず、なぜできないのかを考えることで、その後に選ぶエクササイズも変わります。
コンディショニングを取り入れたトレーニングはどう組み立てる?
評価で身体の課題が見えたら、次はプログラムの組み立てです。
可動性や柔軟性に課題があれば「緩める・伸ばす」、動きのコントロールに課題があれば「活性化する・動かす」。
動きに問題が認められない場合であれば、動きに負荷をかけた筋力トレーニングを処方します。


まとめ
運動指導では、エクササイズを教えるだけでなく、目の前の人の身体の現状がどのような状態なのかを見極めることが大切です。
そこで、姿勢や動作を評価から、必要に応じて身体を整えて、整った状態で鍛えていく。
このようなプロセスに沿って進めていくことで、安全で効果的な運動指導につながります。
具体的な評価方法やエクササイズの組み立て方については、[無料会員登録後]にセミナーアーカイブ動画をご視聴いただけます。
ぜひ日々の運動指導にお役立ていただければ幸いです。
参考文献
Johnson J. Postural Assessment. Champaign IL: Human Kinetics; 2011






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