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リハビリや運動指導に活かすためにー「姿勢と動作の評価」がなぜ重要なのか?

更新日:2025年10月7日


はじめに


通常、運動器のリハビリテーションは、医師の病理学的・解剖学的な診断に基づいて行われます。しかし、近年の多くの研究により、椎間板ヘルニアや関節の変形といった画像検査で確認される構造的な異常は、症状のない健康な人にも高い頻度で見られることがわかってきました。


この事実は、画像所見が必ずしも痛みの直接的な原因とは限らないという重要な視点を示しています。そのため、理学療法士やトレーナーなどの専門家は、医師の診断を尊重しつつも、身体機能に着目する必要があります。


患者さんの訴える症状、身体所見、そして画像所見を統合的に解釈し、リハビリテーションや運動の計画を立てることが求められます。


この記事では、姿勢や動作の評価から、機能的な視点で痛みの根本原因にアプローチする、段階的な介入の重要性について解説します。



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外来整形外科クリニックにおけるリハビリの現状と課題


整形外科を受診する患者さんの主な動機は、「痛みが日常生活や仕事、スポーツ活動に支障をきたすようになった」「違和感や痛みが改善せず、不安を感じるようになった」といった、生活に支障が生じるレベルの不調です。


初診患者(n=405)のデータを分析した結果、受傷の原因は大きく以下の3つに分類されました。


一般的な整形外科クリニックにおける受傷起因

このデータから、一般的な整形外科クリニックでは、明確な原因がないまま発症する慢性的な症状を抱える患者さんが最も多いことがわかります。これは、外来の整形外科におけるリハビリテーションにおいて、単なる外傷治療にとどまらない、機能障害に対するアプローチが重要であることがわかります。



主な症状部位と治療満足度の問題


リハビリテーションの指示が出された患者(n=1064)の症状部位を分析したところ、年代を問わず以下の部位が上位を占めました。


疾患別・部位別のリハビリ内容データ

頚部と腰部で全体の約半数を占めるこの傾向は、国内外の研究でも共通しています。[1


しかし、このような頻度の高い症状に対し、患者の治療満足度は必ずしも高くありません。ある研究では、治療中の患者の49%が別の医療機関へ転院し、治療満足度が高いと答えたのはわずか36%であったという報告もあります。[1



満足度低下の背景にある課題


この満足度の低さの背景には、外来リハビリテーションにおける以下のような課題が考えられます。


  • 受動的治療への依存:電気治療やマッサージといった受動的な治療が中心となり、患者さんがケアに依存してしまう傾向がある。

  • 根本原因へのアプローチ不足:症状は一時的に軽減されても、症状を引き起こしている根本的な原因(姿勢や動作の機能障害など)へのアプローチが不十分である。

  • 治療の長期化と不完全な改善:結果として治療が長期化し、根本的な改善に至らないケースが多い。


これらの課題を踏まえ、外来リハビリテーションには、単に症状を和らげるだけでなく、姿勢や動作の評価を通じて原因を特定し、個別に最適化された運動療法を処方するという、より積極的かつ段階的なプロセスが強く求められています。



診察時に見過ごされがちな身体機能


整形外科の診察は、問診、レッドフラッグ(重篤な疾患の兆候)の確認、身体診察(視診・触診など)、そして画像検査(レントゲンやMRIなど)という手順で進み、最終的に病理学的・解剖学的な診断名が下されます。このプロセスは、障害された組織を特定する上で非常に重要です。


一般的な診察手順

しかし、この診察プロセスだけでは、痛みや症状が「なぜ」起こったのか、という根本原因まで明らかにすることは困難です。特に、不良姿勢や非効率な動作パターンといった生体力学的ストレスが原因の場合、画像検査に異常が現れないケースも少なくありません。


従来の診察過程では、「姿勢と動作の評価」が体系的に含まれていないのが現状です。その結果、患者の「身体機能」の問題が見過ごされてしまい、痛みの根本的な原因にアプローチできないまま、症状の一時的な緩和にとどまってしまう可能性があります。



画像診断の有用性と限界


画像診断技術は飛躍的に進歩し、その利用頻度は増加しています。ある報告によれば、1997年から2006年にかけてCTスキャンの使用は2倍、MRIは3倍になったとされています [2]。


しかし、多くの研究が、画像上で確認される構造的異常と、患者が訴える痛みや機能障害との間に強い相関がないことを明らかにしています [3]。


実際、症状のない健康な人々の身体を調べると、驚くほど多くの「異常」が見つかります。これらの所見は加齢ととも増加する傾向があり、しばしば痛みの原因として誤って解釈されがちです。


以下は、症状のない健康な成人を対象とした画像診断研究の結果をまとめたものです。[4],[5],[6],[7],[8],[9


画像診断の落とし穴

これらのデータが示すように、画像上の構造的異常は、必ずしも症状と直結するわけではありません。


重要なのは、画像所見を鵜呑みにするのではなく、患者の訴えや身体所見と照らし合わせ、それらが一致するかを慎重に見極めることです。


もし一致しない場合は、姿勢や動作パターンといった機能的な視点から原因を探る評価が必要不可欠となります。



構造的アプローチvs機能的アプローチ


リハビリテーションにおける治療介入のアプローチは、大きく「構造的アプローチ」と「機能的アプローチ」の2つに分けられます。


ここで強調したいのは、どちらか一方のアプローチが優れているのではなく、両方の視点を統合することが重要であるという点です。


構造的アプローチと機能的アプローチ

1. 構造的アプローチ(病理解剖学に基づく)

目的:疾患の重症度や進行具合を正確に把握すること。

役割:「何をしてはいけないか」という禁忌事項を理解した上で、安全なリハビリテーションを提供する確かな基盤となります。


2. 機能的アプローチ(機能障害に基づく)

目的:姿勢や動作を評価することで、痛みの根本原因となっている機能障害を特定すること。

役割:「機能障害に対して何を行うべきか」を具体的に示し、痛みや症状の根本原因に合わせた個別化された運動プログラムの提供を可能にします。


このように、理学療法士やトレーナーといった専門家は、構造的な側面と機能的な側面の両方からアプローチを考慮し、多角的に痛みや症状の原因を特定していくという重要な役割を担っています。



「姿勢と動作の評価」が担う役割


症状が改善しフィットネス領域へ移行する過程、あるいはフィットネス領域でパフォーマンス向上を目指す過程において、両領域に共通して不可欠なのが「姿勢と動作の評価」です。


この機能的評価は、メディカルとフィットネスという領域間のギャップを埋める役割を果たします。つまり、一貫性のある個別化されたアプローチを実現するための共通言語となり得るのです。


そのためには、医師の医学的初見を踏まえ、理学療法士を含むメディカルスタッフと、トレーナーなどの運動指導専門家との緊密な連携が重要になります。


「姿勢と動作の評価」は、治療を目的とするメディカル領域から、健康増進やパフォーマンス向上を目的とするフィットネス領域まで、すべての段階で一貫したケアを可能にする共通言語です。


従来の構造的な視点に加えてこの機能的視点を取り入れることで、症状の一時的な緩和ではなく、根本的な問題の解決につながる、より包括的なアプローチが実現します。


医師、理学療法士、トレーナーが連携し、この評価を共有することで、患者さんは痛みからの回復だけでなく、その先の快適な生活や高いパフォーマンスへと円滑に移行できるようになります。



関連動画




参考文献


  1. Nakamura M et al:Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan. J Orthop Sci. 2011

  2. Smith-Bindman R et al:Rising use of diagnostic medical imaging in a large integrated health system. Health Aff (Millwood). 2008 Nov-Dec;27(6):1491-502.

  3. Culvenor AG et al: Infographic. When is abnormal normal? Reframing MRI abnormalities as a normal part of ageing. Br J Sports Med. 2021

  4. Nakashima H et al: Abnormal findings on magnetic resonance images of the cervical spines in 1211 asymptomatic subjects. Spine (Phila Pa 1976). 2015 Mar 15;40(6):392-8.

  5. Tempelhof S et al: Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders. J Shoulder Elbow Surg. 1999 Jul-Aug;8(4):296-9.

  6. Brinjikji W et al:Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR Am J Neuroradiol. 2015 Apr;36(4):811-6.

  7. Register B et al: Prevalence of abnormal hip findings in asymptomatic participants: a prospective, blinded study. Am J Sports Med. 2012 Dec;40(12):2720-4.

  8. Culvenor AG et al:Prevalence of knee osteoarthritis features on magnetic resonance imaging in asymptomatic uninjured adults: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2019 Oct;53(20):1268-1278.

  9. O’Neil J et al: Anterior Talofibular Ligament Abnormalities on Routine Magnetic Resonance Imaging of the Ankle. Foot & Ankle Orthopaedics. September 2017.


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