前鋸筋はどう鍛える?機能解剖から考えるトレーニングの選び方
はじめに
前鋸筋(ぜんきょきん:Serratus Anterior)は、胸郭の側面に位置し、肩甲骨の安定と運動に重要な役割を果たす筋肉です。
この筋肉は、主に肩甲骨を胸郭に安定させながら、腕を挙げる際に必要な肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋にも関与しています。
前鋸筋の機能が低下すると、肩甲骨が背中から浮き上がる「翼状肩甲骨」がみられることもあります。
本記事では、前鋸筋の基本的な解剖と機能をわかりやすく整理し、機能低下によって生じる問題や評価のポイント、効果的なエクササイズについて研究論文をもとに解説します。
前鋸筋の構造と機能
前鋸筋の特徴の一つは、胸郭の側面に鋸(のこぎり)の歯のように広がる筋線維の形状です。
第1〜第8または第9肋骨の外側面から始まる筋線維が胸郭に沿って後方へ走行し、肩甲骨内側縁の肋骨面に付着します。
前鋸筋は、肩甲骨を前方へ動かす外転作用に加え、上方回旋や後傾、外旋にも関与し、肩甲骨を胸郭上で安定させながら、腕を挙げる動作を支える重要な役割を担っています[1]。

前鋸筋は筋線維の付着部や走行などの違いから、形態的に異なる3つの区分に分けられることが示されています[2,3]。
区分 | 主な起始 | 主な停止 |
上部 | 第1肋骨、第2肋骨上部の筋束 | 肩甲骨上角 |
中部 | 第2肋骨下部の筋束、第3肋骨 | 肩甲骨内側縁 |
下部 | 第4〜8(または9)肋骨 | 肩甲骨下角 |
神経支配

前鋸筋は、主に第5〜第7頸神経(C5〜C7)の前枝から形成される長胸神経によって支配されています[1]。
長胸神経は胸壁の外側を下行し、前鋸筋の表面に沿って走行するのが特徴です[1,3]。
前鋸筋の機能低下や麻痺が起こると、肩甲骨が胸郭に固定されず、後方に浮き出て突き出す翼状肩甲骨(よくじょうけんこうこつ)と呼ばれる状態が生じます。
前鋸筋の機能解剖学的な特徴と役割
前鋸筋は、肩甲骨を前外方へ引く外転と、胸郭上で肩甲骨を安定させる働きを担っています。
上部線維は肩甲骨上部の安定に、中部線維は肩甲骨の外転に関与します。
一方、下部線維は肩甲骨の下角を前外方へ引くことで上方回旋を促し、腕を挙げる動作を支えます。
また、肩甲骨が固定された状態では、肋骨を引き上げ、吸気を補助する働きもあります。
前鋸筋は、腕立て伏せなど、腕を前方へ押し出したり、頭上へ挙げたりする動作でも重要な役割を果たします。
前鋸筋は、小胸筋や僧帽筋などの肩甲骨周囲筋と協調し、肩甲骨の位置や動きを調整しています。

また、投球動作などでは大胸筋とも連動し、腕を前方へ動かす際の肩甲骨の安定性を支えています。
前鋸筋の機能低下と肩の痛みとの関連
肩のインピンジメント症状がある人では、前鋸筋の筋活動低下や肩甲骨の運動異常が報告されています[4]。
ただし、前鋸筋の機能低下が肩の痛みを直接引き起こすとは限りません。そのため、評価では前鋸筋の筋力だけでなく、肩甲骨の動きや胸椎の姿勢など、複数の要因を確認することが重要です。
前鋸筋を強化するトレーニング
ここからは、前鋸筋の機能を踏まえ、筋力強化に効果的なエクササイズと、トレーニングを行う際のポイントについて解説します。




