運動が続かない理由とは?リハビリや運動指導における阻害要因と促進要因
- 5月21日
- 読了時間: 9分
更新日:1 日前
Key Points:このレビューから見えてきたこと
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はじめに
運動療法の必要性を理解し、適切なエクササイズを提案していても、実際には患者さんやクライアントの継続につながらず、難しさを感じる場面は少なくありません。
運動療法は、肩こりや腰痛、変形性膝関節症など、多くの筋骨格系疾患に対する第一選択の治療法とされています。
しかし実際には、運動継続率は時間とともに低下し、18ヵ月後(1年半)には約半数まで減少することが報告されています。

つまり、「運動が効果的であること」と、「実際に継続できること」は別問題であるということです。
では、なぜ人は運動を続けられないのでしょうか。そして、何が運動継続を後押しするのでしょうか。
本記事では、2025年に発表されたde Amorimらのシステマティックレビューをもとに、筋骨格系疾患患者における運動継続の障壁と促進因子を整理し、運動が続かない理由をリハビリや運動指導の現場で活かせる視点をわかりやすく解説します。
Background & Objective:背景と目的

筋骨格系疾患とは
WHO(世界保健機関)によれば、筋骨格系疾患は150以上の病態を含み、世界では約17億人が罹患しているとされています。
筋骨格系疾患は、痛みや機能障害、QOL低下を引き起こすだけでなく、労働生産性の低下にも関与しており、米国では年間3,800億ドル規模、日本でも多額の医療費が費やされています。
運動療法は有効なのに、なぜ続かないのか
運動療法は、変形性関節症や腰痛、関節リウマチなど多くの筋骨格系疾患において、痛みの軽減や機能改善、QOL向上に有効であることが示されています。
実際に、主要な国際ガイドラインでも運動療法は第一選択として推奨されています。
しかし一方で、運動継続率の低下は依然として大きな課題です。どれだけ適切な運動プログラムを設計しても、「何が継続を妨げ、何が後押しするのか」を理解できなければ、実際の行動変容にはつながりません。
このレビューが目指したこと
この研究レビューでは以下の2点を目的としています。
筋骨格系疾患患者における運動継続の障壁と促進因子を特定し、領域ごとに整理すること
障壁・促進因子を調べるために使われた方法とツールを把握すること
Methods:方法
5つのデータベース(MEDLINE・EMBASE・CINAHL・SPORTDiscus・Cochrane Library)を対象に、2024年5月までの文献を網羅的に検索しました。最終的に81研究・5,772名のデータが分析対象となっています。
対象は、変形性関節症・腰痛・関節リウマチ・骨粗鬆症など筋骨格系疾患を持つ成人で、運動プログラムが処方された研究に限定されています。
抽出された障壁・促進因子は、社会生態学的モデルに基づき「個人内因子」「対人因子」「コミュニティ因子」の3領域に分類・整理されました。評価方法はインタビュー・質問票・フォーカスグループの3種類が確認されています。

個人内因子(Intrapersonal) | 知識・信念・態度・健康状態・痛みなど個人に属する要素 |
対人因子(Interpersonal) | 家族・友人・医療提供者との関係性 |
コミュニティ因子(Community) | 施設へのアクセス・交通手段・天候・費用など環境的要素 |
Results:結果
対象研究の概要
81研究・合計5,772名のデータが分析されました。研究の95%が「良質」または「普通品質」と評価されており、信頼性の高い研究群です。
研究はヨーロッパ(39件)、北米(24件)、オセアニア(11件)、アジア(5件)、アフリカ(2件)と幅広い地域から収集されています。
運動が続かない理由:運動継続を妨げる要因と後押しする要因
障壁要因:何が運動を妨げるのか?
最も多く報告された障壁トップ3は以下の通りです。

時間不足(53%の研究で言及)
最も多く挙げられた障壁は、「時間の不足」でした。仕事や家事、育児、介護など日常生活の忙しさによって、運動が後回しになってしまうケースは少なくありません。
また、「時間がない」という背景には、単なるスケジュールの問題だけでなく、運動の優先順位が低くなっているという認知的側面が含まれている場合もあります。
痛み(46%)
痛みがあると、「動くと悪化するのではないか」という不安や恐怖から、運動を避ける行動が生じやすくなります。
特に、運動恐怖心は、運動継続を妨げる重要な要因として、複数の研究で報告されています。
健康状態(41%)
併存疾患・疲労・手術・感染症など、運動を行うための身体的準備ができていない状態が障壁となることがわかりました。
その他、「信念(33%)」「モチベーション不足(30%)」「費用(27%)」「医療提供者の関わりの不足(38%)」なども上位に挙がっています。
促進因子:何が運動を後押しするのか?
最も多く報告された促進因子トップ3は以下の通りです。

自己効力感(42%)
「自分にもできる」という感覚は、運動への参加や継続を支える重要な要因であることが示されました。
こうした自己効力感は、一度に大きな成果を求めるのではなく、運動を通じた小さな成功体験を積み重ねることで高まりやすくなります。
健康上のメリットの認知(32%)
「運動すると身体の調子が良い」「痛みが軽減する」「体力がついてきた」など、運動による効果を実感できることは、継続を支える大きな動機になります。
また、「続ければ良くなりそうだ」という前向きな期待感も、運動継続を後押しする要因の一つです。
過去の運動経験(31%)
過去に運動習慣があった患者さんや、これまでに運動効果を実感した経験がある患者さんは、比較的継続しやすい傾向がみられました。
その他「行動計画(26%)」「身体的能力の向上(25%)」「医療提供者のサポート(51%)」「仲間や家族のサポート(21%)」も重要な促進因子として挙げられています。
痛みは「障壁」にも「促進因子」にもなるということ
この研究レビューで興味深い視点として痛みは障壁としてだけでなく、一部では継続を後押しする要因としても報告されている点です。
例えば、「動くと悪化するかもしれない」という解釈は運動回避につながります。一方で、「このままでは悪化するから運動したほうが良い」という認識は、行動を促すきっかけになります。

つまり、同じ「痛みがある」という状況でも、その痛みを患者さんがどう捉えるかによって、行動は大きく変わるということです。
そのため、トレーナーやセラピストには、「痛み=動いてはいけない」という不安を強めすぎず、「無理のない範囲で動くことは回復につながる」という理解を支援する関わりが求められます。
運動継続には、安心して取り組める運動設定と、小さな成功体験を積み重ねられる環境づくりが重要です。
Limitations:限界
本レビューには、いくつかの留意点もあります。
まず、研究によっては「障壁」のみ、あるいは「促進因子」のみを扱っており、両者を公平に比較することが難しい点があります。
また、多くの研究は個人要因に焦点を当てており、家族・職場・地域などの対人・環境要因については十分に検討されていませんでした。
さらに、質問紙調査やインタビューなど研究手法が多様で、データの整理方法にもばらつきがあるため、定量的な比較分析には限界があります。
Clinical Implications:臨床的示唆
1. まず「自己効力感」に着目する
自己効力感(「自分にもできる」という感覚)は、運動継続を支える最も重要な要因の一つです。そのため、初回評価の段階から、「この人は運動を続けられそうと感じているか」を確認する視点が重要になります。
小さな成功体験を積み重ねられる目標設定を行う |
「できたこと」を言語化して承認する |
難しすぎる課題設定を避ける |
2. 「時間がない」の背景にある優先順位を探る
「時間がない」と訴える患者さんの多くは、単に忙しいだけでなく、運動の優先順位が下がっている状態にある場合も少なくありません。
そのため、「運動の時間を作りましょう」と伝えるだけでなく、まずは日常生活の中で意識できることや、無理なく取り入れられることをエクササイズに落とし込んで提案することが重要です。
通勤や家事、隙間時間など日常生活に組み込める運動を提案する |
「まずは1日30秒からでも良い」と現実的な目標設定を行う |
「いつ・どこで・何をするか」まで一緒に行動計画を立てて提案する |
3. 痛みの「解釈」を変える患者教育(セルフマネジメント)
「痛みがあるから動けない」と感じている方に対しては、痛みに対する不安を減らせるよう、痛みの意味や身体の反応について丁寧に説明することが重要です。
「痛み=動いてはいけない」ではないことを共有する |
痛みが出にくい軽い運動から始める |
小さな成功体験を積み重ねる |
4.サポートの「形」を整える
対人因子の中で最も多く報告されたのは、「医療提供者からのサポート」でした。
患者さんは、単に運動指導を受けるだけでなく、「支えられている」「一緒に取り組んでもらえている」という感覚を求めていることが示されています。
運動の意義と理由を丁寧に説明する(なぜこの運動なのかを伝える) |
家族や仲間を巻き込む |
自宅でも取り組みやすい運動資料や動画を共有する |
5.行動変容モデルの活用を検討する
本レビューでは、理論に基づいた介入設計の重要性も示されています。
実際の臨床では、経験則だけでなく、行動変容モデルを活用することで、運動継続を妨げている要因を整理しやすくなります。
例えば、Theoretical Domain Framework(TDF)やCOM-Bモデルは、海外の研究や臨床でも活用されている代表的なフレームワークなどを用いることで、患者さんの行動変容をより体系的に支援しやすくなる可能性があります。
まとめ
この研究レビューは、筋骨格系疾患患者における「運動を続けられない理由」と「続けられる理由」を、81の研究から体系的に整理したシステマティックレビューです。
重要な点は、運動継続は身体的な問題だけで決まるのではなく、患者さんの信念や感情、認知の影響を大きく受けるということです。
そのため、運動の種類や強度を考えるだけでなく、患者さんが運動をどう捉えているのか、痛みに対してどのような不安を抱えているのか、どんなサポートがあれば続けやすいのかに目を向けることが、運動継続を支えるうえで重要になります。
運動を「処方して終わり」にするのではなく、「実際の行動につなげる」という視点が、これからのリハビリや運動指導ではより求められていくのかもしれません。





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