自宅エクササイズを患者やクライアントに上手く処方するためのヒント
- フィジオプラス

- 2025年10月12日
- 読了時間: 12分
更新日:6 日前
はじめに
リハビリテーションや運動指導で患者やクライアントに自宅でのエクササイズプログラム (HEP:Home exercise program) を提供することは、患者やクライアントの症状や成果を導くためにとても重要な方法手段の1つです。[1]
実際に患者やクライアントが自宅でのエクササイズプログラムを理解して取り組んだ場合、目標達成が早く、身体機能の改善が期待できます。
しかし、首や肩、膝の痛みなどの整形外科疾患患者では、自宅での運動プログラムの不遵守は 50 ~ 65% にもなることが示されています。[2]
また、腰痛患者を集めた研究では、自宅でのエクササイズプログラムを遵守していない人が 50~70% 上回ることが示されています。[3]
このように、リハビリテーションで処方した自宅エクササイズプログラム遵守できていないことが障壁となっています。
現状の課題を踏まえ、トレーナーやセラピストは単純に自宅エクササイズプログラムを処方するのではなく、患者の動機を高め、自宅エクササイズの参加を促すための工夫が必要です。
この記事では、自宅エクササイズを患者やクライアントに上手く処方するためのヒントについて内容を整理してご紹介していきます。
専門的用語の理解:指示に従う「コンプライアンス」と相互理解の「アドヒアランス」
自宅でのエクササイズプログラムを患者やクライアントに処方する際、成果を左右する重要な要素の一つが「継続」です。継続を考えるうえで欠かせないのが、「コンプライアンス(Compliance)」と「アドヒアランス(Adherence)」という2つの概念です。
どちらも医療・リハビリテーションの分野でよく用いられる用語ですが、その意味合いは大きく異なります。
コンプライアンス(Compliance): | 患者が医療提供者の指示に従うことを指します。日本語では「服従(ふくじゅう)」と訳されることもあり、医師の処方や治療計画をどの程度守っているか、つまり、医師の指示に「従っているか」という点に焦点を当てた、受動的な健康行動を意味します。 |
アドヒアランス(Adherence): | 患者と医療提供者が協力して治療計画に「共同で取り組む」関係を指します。日本語では「遵守(じゅんしゅ)」と訳されることもあり、患者が自らの健康状態を管理し、医療従事者からの説明を理解したうえで、健康行動を継続的に実行することを意味します。つまり、医療従事者と患者との相互理解に基づく、能動的な健康行動を示す概念です。 |
このように「コンプライアンス」は医療従事者から患者への一方的な指導関係であるのに対し、「アドヒアランス」は医療従事者と患者の相互理解を基にした関係を示しています。[4]
近年、医療現場においてはコンプライアンスよりもアドヒアランスの概念の方がより現代的で患者中心のケアとして推奨されています。
自宅でのエクササイズプログラムを処方する場合、これらの2つに影響を与える要素について理解する必要があります。
コンプライアンスとアドヒアランスに影響を与える要因

コンプライアンスに影響を与える要素として、エクササイズの指示の複雑さや種目数の多さ、または高齢者などで服従率に影響を与える要素とされています。[5]
一方、アドヒアランスに影響を与える要素として患者やクライアントの忙しさや痛みや誤った信念が強い場合、また自己効力感が低いなどの場合は尊守率が低下するとされています。[6]
このように2つの要素を理解しながらどのようにして自宅でのエクササイズプログラムを取り組んでもらえるかについて工夫する必要があります。
遵守率向上のカギは、エクササイズの役割を明確に区別すること

自宅でのエクササイズプログラムの遵守率を向上させるためには、病院(クリニック)や治療院で行うエクササイズ指導と、自宅で行うセルフエクササイズの役割を明確に区別することが重要です。
施設内でのエクササイズ指導(=運動療法)は、専門職の評価・指導のもとで機能改善を目的に体系的に行われる一方、自宅エクササイズは、その成果を日常生活の中で維持・定着させるための補完的な役割を担います。
このように目的や位置づけを明確にしたうえで、それぞれに適した内容・方法で提案することが、遵守率の向上につながります。
病院(クリニック)や治療院で行う運動指導の処方ですべきこと
01|エクササイズの目的と方法を理解してもらう
自宅でのエクササイズプログラムを継続してもらうために最も重要なのは、その運動の「目的」を相手に理解してもらうことが重要です。
単に「このエクササイズを紹介します!」や「自宅でもやってみてください!」と伝えるだけでは、患者やクライアントの心には響きません。エクササイズが自分にとってどのような利益をもたらすのかを理解できなければ、実践につながりません。

そのため、トレーナーやセラピストは、処方するエクササイズの目的や、なぜそのエクササイズを選択したのかという評価・考察のプロセスを、患者・クライアントに対して明確に説明し、伝える必要があります。
まずは、自宅でのエクササイズを処方する前に、そのエクササイズの必要性や目的をしっかりと伝えることが重要です。
02|エクササイズの反応を確認する
自宅でのエクササイズプログラム処方につなげていくためには、病院や治療院などでの治療介入時に実施した治療手技や運動療法が、患者・クライアントにとって正しい反応(症状の改善などの効果)が得られていることが前提となります。
そのためには、評価(問題点はどこか) → 治療介入(その問題を解決するための最適な方法は何か) → 再評価(選択した手段によって問題が解決されたかどうか)という一連のプロセスを丁寧に行う必要があります。

正しい反応を得るためには、適切な評価に基づいた判断と治療介入が不可欠です。
仮に処方したエクササイズが偶然うまく作用したとしても、なぜそのエクササイズが効果を発揮したのかを明
確に説明できなければ、相手にエクササイズの必要性を十分に伝えることはできません。
このように、評価から再評価までのプロセスを踏まえ、その経緯を説明しながら治療介入を行うことで、治療の方向性や現状の問題点を明確にするとともに、患者・クライアントの積極的な参加を促すことが可能になります。
03|エクササイズに対する意欲を高める
エクササイズの必要性や、処方に至った背景――つまり、エクササイズの目的を明確に伝え、相手に理解してもらうことの重要性については、前述の通りです。
しかし、いくらその必要性を十分に理解してもらえたとしても、実際の行動へと結びつかなければ、自宅でのエクササイズの遵守率は向上しません。
ここで重要になるのが、患者やクライアントの意欲をいかに高めるかという点です。
相手の意欲を引き出すためには、ポジティブな反応を生み出す要因と、ネガティブな反応を引き起こす要因の双方を理解することが不可欠です。

とくに運動療法を処方する場面では、動作の誤りやできていない点を指摘することに意識が偏りがちです。しかし、指摘ばかりを受けると、患者やクライアントは「自分は上手くできない」という負の印象を抱きやすく、エクササイズに対する主体性を損なう要因となってしまいます。
そのため、エクササイズの目的や利点を明確に伝えるとともに、患者やクライアントができている点を具体的に言葉で評価する「正のフィードバック」を意識的に行うことが重要です。
たとえば、
「ちゃんとできていますよ」「前よりもスムーズにできるようになっていますね」
といった声かけは、相手が自分の変化や成長を実感するきっかけとなり、エクササイズへの意欲や主体性を高める効果があります。
04|自己効力感を高める
自宅でのエクササイズプログラムを実践し、患者のアドヒアランスを高めるためには、自己効力感(セルフ・エフィカシー)を高めることが重要とされています。[7]

自己効力感には大きく4つの要素があり、これらを達成することで自己効力感が高まるとされています。[8]
治療介入として運動療法を処方する際には、これらの要素に基づいた経験や体験を意図的に導くことで、患者やクライアントの自己効力感を高め、結果としてエクササイズの遵守率を向上させることが可能になります。
自宅エクササイズとして処方ですべきこと
01|シンプルで実施しやすい種目を選択する
自宅でのエクササイズプログラムを処方するうえで最も重要なことは、患者やクライアント自身が「これなら自宅でもできるかも!」と感じられるように仕掛けることです。
子どもに「勉強しなさい!」と叱っても勉強しないのと同じように、患者教育の一環として一方的にエクササイズの必要性を伝えるだけでは、遵守率の向上にはつながりません。

重要なのは、作り込んだ資料を渡すことや丁寧な説明をすることそのものではなく、相手が「これだったら家でもやってみよう」と自然に思えるような仕掛けを施すことです。
そのためには、
実施するエクササイズが手軽であること
注意点や複雑なポイントを最小限に抑えること
家庭でも実践しやすいような環境設定を考慮すること
といった点を工夫して処方することが重要なポイントとなります。
トレーナーやセラピストにとって、患者やクライアントが自宅でも積極的にエクササイズを行ってくれることは理想的な姿です。しかし、その第一歩として重要なのは、相手が「やってみよう!」と前向きな姿勢を持てるように導く指導を行うことです。
02|時間効率の良い2〜3種目を提案する
自宅でのエクササイズプログラムを提案するうえで大切なことは、シンプルで実施しやすい種目を選択することです。
自宅でのエクササイズ処方に関する研究では、2つのエクササイズを処方された被験者は、8つのエクササイズを処方された被験者よりも遵守率が高く、4つ以上のエクササイズを処方された被験者では、2つ以下のエクササイズを処方された場合よりも遵守率が低下したという報告があります。[9]
このことから、自宅でのエクササイズプログラムを処方する際は、多くても2〜3種目程度に絞ることがポイントです。

さらに、患者やクライアントにとって「これなら自宅でもできそう」と感じてもらえるかどうかも、遵守率を高めるうえで重要な要素です。
以上の点を踏まえ、手軽さ・手順の簡便さ・環境設定の容易さなどを考慮したエクササイズプログラムの提案が鍵となります。
例えば、デスクワークによる首や肩のこりがある患者・クライアントに対しては、ベッドに仰向けになる動作や立位で行うエクササイズよりも、座位のままできるエクササイズを処方する方が、実施しやすく遵守率の向上にもつながります。
また、道具を使用して事前に準備が必要なエクササイズよりも、机・椅子・壁など、自宅にある環境を活用できる種目を選択することで、エクササイズの手軽さと実施しやすさを保つことが可能です。
03|実施可能なエクササイズの選択肢を与える
人は、指示されるよりも自分の判断で選択・決断したことの方が価値を感じやすく、行動にもつながりやすいといわれています。
そのため、エクササイズ処方では「言われたことを守る自主性」を持たせることよりも、自ら考えて行動する主体性を引き出すことの方が重要です。
主体性を引き出す簡単な方法として、自宅でのエクササイズを提案する際に「これをやってきてください」と一方的に指示するのではなく、
「2つの方法を紹介しますが、どちらの方がやりやすそうですか?」
といったように、複数の選択肢を提示し、その中から本人に選んでもらうという方法があります。

このように選択肢の中から自ら選んでもらうことで、自分の行動に責任を持って取り組む姿勢を引き出し、積極的な参加を促すことができます。
04|実施可能なエクササイズツールを活用したり提案する
自宅でのエクササイズツールは、タオルや椅子など、自宅にある身近なものを活用することが基本条件です。
しかし、エクササイズツールを活用した運動療法によって改善効果が得られたり、患者のエクササイズに対する積極性が高まった場合には、患者自身の可能な範囲でツールを揃えてもらうことで、主体性の向上が期待できます。

トレーニングマシンのように、場所やコストが大きくかかるものは現実的ではない場合が多いですが、フォームローラー、テニスボール、レジスタンスバンド(エクササイズチューブ)などは、比較的コストが低く場所も取らないため、自宅で導入しやすいツールです。
このようなツールを患者自身に購入・活用してもらうことで、自宅でのエクササイズに対するモチベーションや主体性を高めることが可能になります。
まとめ
この記事では、自宅でのエクササイズプログラムを効果的に患者やクライアントへ処方するための重要なポイントについて、病院や治療院でのエクササイズ処方と自宅でのエクササイズ処方の違いに焦点を当てながら、どのように自宅でのエクササイズを効果的に実践してもらうかを具体的に解説しました。
患者が自宅でのエクササイズプログラムを継続して実践するためには、単に教育するだけでなく、コンプライアンス(治療遵守)やアドヒアランス(継続的な取り組み)に影響を与える要素を理解し、個々のニーズに合わせた提案を行うことが重要です。
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