ASLR(Active SLR)の評価で何がわかる?骨盤帯安定性と運動制御を見抜くポイント
- 19 時間前
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はじめに
リハビリや運動指導の現場において、Active SLR(ASLR:Active Straight Leg Raise)は頻用される評価法の一つです。
しかし実際の現場では、「どこまで挙上できるか」という可動域の確認にとどまり、本来読み取るべき機能的情報が十分に整理されていないケースも少なくありません。
ASLRは、股関節の可動性やハムストリングスの柔軟性を評価するテストではなく、骨盤帯の安定性、荷重伝達能力、そして体幹と下肢の運動制御を反映する包括的な機能評価です。
本記事では、ASLR評価から「何がわかるのか」を専門的視点から簡潔に整理し、骨盤帯の安定性と運動制御を見抜くための観察ポイント、さらに自動SLRと他動SLRの違いに基づく鑑別の考え方について、わかりやすく解説します。
ASLRの評価と基本的意義

ASLR(Active Straight Leg Raise)は、背臥位で膝関節を伸ばしたまま片脚を挙げるテストです。最大可動域は通常 70°〜90° とされています。[1]
この評価の主な目的は、同じ下肢挙上テストである受動的SLR(Passive SLR:PSLR)と比較することで、制限因子になっている軟部組織を明確にできる点にあります。
この評価の特徴は、同じ動作様式をとる受動的SLR(Passive SLR:PSLR)と比較することで、可動域制限の要因が軟部組織にあるのか、それとも運動制御にあるのかを整理できる点にあります。

PSLRが主にハムストリングスなどの軟部組織の伸張性を評価するのに対し、ASLRでは被検者自身が脚を持ち上げるため、能動的な運動制御能力が直接反映されます。
そのため、評価の対象は、単なる股関節屈曲可動域ではなく、体幹・骨盤を安定させた状態で下肢を協調的に動かす能力です。
そのため、リハビリテーションやトレーニングの臨床場面においてASLRは、腰椎・骨盤帯の安定性を維持しながら四肢を分離して動かせるかどうかを確認する、基礎的かつ実践的な運動制御評価として位置づけられています。
ASLRでわかること:柔軟性だけではない身体機能の評価
ASLR評価は、主に以下の3つの能力を同時に評価することができます。
荷重伝達能力(Load Transfer)を評価
骨盤帯における荷重伝達が不十分な症例(特に産後の骨盤帯疼痛や非特異的腰痛など)では、ASLR動作を「重い」と感じたり、代償動作が出現したりします。Mensら(1999)の研究によれば、骨盤帯に徒手的な圧迫を加えることでASLRが軽快する場合、骨盤の構造的な安定性や、筋活動によって得られる安定性が十分に機能していない可能性を示唆します[2]

コアの安定性と分離運動を評価
挙上側の下肢重量を支えるためには、骨盤を中間位に保つための腹部深層筋群の活動が不可欠です。ASLR実施中に骨盤の前傾や腰椎の過伸展が見られる場合、それは股関節屈曲運動と体幹安定化の「分離」ができていないことを意味します[3]。
対側肢の固定性(Posterior Chainの連結)を評価
挙上しない側の脚(軸足)は、床を押し返すことで骨盤を安定させる役割を担います。ASLRは挙上側だけでなく、挙上しない側の股関節伸展位を保持する能力の評価でもあります。
ASLR評価における観察ポイント:代償動作のスクリーニング
ASLRを実施する際、以下の3点に注目して観察してください。

臨床応用:自動と他動SLRの差から考える鑑別のポイント
ASLRとPSLRと比較することで、可動性の問題なのか、または運動制御や安定性の問題なのかを鑑別しやすくなります。

PSLRは十分だがASLRが制限される場合: | 軟部組織(ハムストリングス等)の硬さではなく、運動制御(モーターコントロール)の欠如や筋力不足が主因である可能性が高いと判断されます[5]。この場合、ストレッチよりも安定性を高めたエクササイズが優先されます。 |
ASLRとPSLR両方とも制限される場合: | 関節包や筋といった軟部組織の硬さ、あるいは神経組織の緊張や滑走不全によって、物理的に動きが制限されている可能性が疑われます。 |
評価時にしびれや放散痛などが生じる場合: | ASLR中に下肢へしびれや放散痛が出現する場合、筋・関節由来の柔軟性制限だけでなく、神経系の緊張や滑走不全が関与している可能性が考えられます。神経学的評価などさらに詳細を行う必要があります。 |
まとめ
ASLRは、挙上時の骨盤の揺れや体幹の代償運動、対側下肢の固定性、さらには「重さ」や「引っかかり感」といった主観的な感覚も含めて観察することで、荷重伝達機構の効率や運動制御の状態を確認できる、動作の質を評価する重要なスクリーニングテストです。
また、ASLR中に下肢へのしびれや放散痛が出現するかどうかを確認することで、神経症状の有無を評価することも可能です。
このようにASLRは、「どこまで上がるか」を測る検査ではなく、「どのように上がるか」「その過程で何が起きているか」を確認する、機能的かつ包括的な評価と言えるかもしれません。
したがって、ASLRの評価では、単に可動域を測定するだけでなく、動作の質や安定性に関わる機能障害を含めて詳細に評価することが重要です。
参考文献
Magee, D. J., & Manske, R. C. (2021). Orthopedic physical assessment (7th ed.). Elsevier.
Cook G. (2010). Movement: Functional Movement Systems: Screening, Assessment, Corrective Strategies. On Target Publications. Chapter 9: Primitive Patterns.




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