運動療法の進め方|段階的に進める5つのポイント
- 20 時間前
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はじめに
運動療法を処方する際、私たちは「どのエクササイズを選ぶか」という点に意識が向きがちです。
しかし、運動療法の効果を高めるためには、過去の経験や「何となく良さそうだから」といった感覚に頼るのではなく、最新の研究に基づいた原則をもとにプログラムを構成し、最適な治療結果を導く視点が求められます[1]。
同じエクササイズであっても、負荷設定や難易度の調整、実施する順序によって、その効果は大きく変わります。したがって、どの種目を選ぶかだけでなく、どの順序で段階的に進めていくかというプログラムデザインの考え方が重要になります。
この記事では、トレーナーやセラピストが理解しておきたい、運動療法を段階的に進める5つのポイントについて解説します。
運動療法とは何か?
運動療法とは、患者の機能を改善または回復させ、機能不全を防ぐためにデザインされるプログラムの中心となる重要な要素のひとつです。
関節の動きや筋力、持久力、協調性などを高めることで、日常生活やスポーツ動作をより良く行える状態をつくることを目的とします[2]。

運動療法は大きく、「治療手技(Manual Techniques)」と「エクササイズ(Exercise)」の2つに分けられます。両者は役割が異なりますが、リハビリテーションや運動指導では相互に補完しながら用いられます。
治療手技(Manual Techniques) | 治療手技は、セラピストが対象者の身体に直接触れて行う介入です。関節可動域の改善や軟部組織へのアプローチなどを通じて、身体を動かしやすい状態をつくることを目的としています。対象者が自分の力で十分に身体を動かせない段階では、このような受動的・補助的な介入が重要になります。 |
エクササイズ(Exercise) | エクササイズは、対象者自身が身体を動かして機能を高めていく方法です。筋力や持久力、協調性などを改善し、日常生活やスポーツ活動に必要な身体能力を向上させることを目的としています。主体的に身体を動かす、能動的な介入が中心となります。 |
リハビリでは、治療手技とエクササイズを別々のものとして考えるのではなく、対象者の状態や回復段階に応じて組み合わせることが重要です。
治療手技によって身体を動かしやすい状態をつくり、その後エクササイズによって機能を高めていきます。このように段階的に統合していくことが、運動療法の基本的な考え方です[1]。
運動療法の進め方|5つのポイント

効果的な運動プログラムを構築するために、以下の5つのポイントを理解しましょう。
段階的な流れとして可動性を高める → 筋肉を活性化する → 自重で正しい動きを習得する → 負荷を加えるという流れになります。
徒手療法は可動性の改善や動きのサポート、筋の活性化を誘導することはできますが、正しい動作を習得することや筋力向上は十分に行えません。
そのため、徒手療法で身体を整えたうえで、エクササイズによって機能を高めていくという考え方が重要となります。
Point 01:動きを高める方法

動きを高めるためには、まず固くなっている筋肉や関節を緩め、可動性を引き出す段階から始めます。
例えば、フォームローラーを用いて胸椎の可動性を高める方法がありますが、胸椎の動きが引き出せたら、その可動域を実際の動きの中で使えるようにすることが重要です。
そのため、チューブなどを用いて背骨を一つ一つ丸めるように動きをサポート(アシスト)しながら、獲得した可動性を動作の中で高めていきます。
このように、単に緩めるだけでなく、サポートを加えながら背骨を動かすことで柔軟性と動作をつなげていくことが、段階的なエクササイズの考え方になります。
Point 02:動きの質をコントロールするための方法

一方で、可動域が十分にあっても動きの質が低下している場合があります。
そのような場合には、上の図のようにボールを挟むなどして体幹の安定性を高めながら動作を行うことで、動きの質を改善する方法があります。
そして、動きの質が高まってきたら、徐々に体幹へのサポートを減らし、自重で動きをコントロールできるようにしていきます。
このように、サポートを活用しながら段階的に負荷を調整していくことも、エクササイズ処方の一つの考え方です。
Point 03:体幹の剛性をより高めるための方法

次に筋を活性化させるフェーズに入ります。ここでは、特定の筋肉が適切に機能(発火)するように刺激を与え、特に体幹の剛性や動作を安定させるインナーユニットの活性化を目的とします。
この段階では、チューブやバンドなどの軽い負荷を用いて体幹へのフィードバックを与え、コアをアクティベートしながら動きの質を高めます。
デッドバグでは、ループバンドの張力に抗う刺激を与えることで腹圧が高まり、脊柱の安定性を随意的・反射的に引き出すリアクティブ(反応的)トレーニングとなります。
体幹の安定性が高まったら、徐々に道具を減らし、自重で動きをコントロールできるように進めていきます。
Point 04:荷重下での機能を高めるための方法

体幹の剛性が高まったら、次は動作の中で安定性を保ちながら身体機能を高めていく段階に進みます。ここではスクワットを例に考えます。
スクワットでは、股関節周囲の筋が十分に働かないと、膝が内側に入るなどの代償動作が起こりやすくなります。
そのような場合、膝の上にレジスタンスバンドを巻き、内側へ引かれる刺激をあえて加える方法があります。すると、その刺激に抗う形で中殿筋などの股関節外旋・外転筋群が反射的に活性化し、膝の位置を保ちやすくなります。
このように、誤った動きをあえて誘導する刺激を与え、それに対する身体の反応によって正しい動作を引き出す方法を、RNT(Reactive Neuromuscular Training)といいます。
こうして適切な筋活動を促しながらフォームを整え、最終的には自重でも正しいスクワット動作が行える状態へとつなげていきます。
Point 05:整った状態で鍛えるための方法

最後は、整った状態の中で身体を鍛えていく段階です。可動域を獲得したから終わり、あるいは体幹を活性化できたから終わりというわけではありません。
可動性を高め、体幹の剛性を獲得できたら、次はそれらを統合した動きの中で負荷をかけていくことが重要になります。つまり、全身の動作の中で機能を発揮できるようにエクササイズを選択し、段階的に身体機能を高めていきます。
運動療法を段階的に進める処方のヒント
効果的な運動療法の進め方は、単にエクササイズを選ぶだけでなく、症状の安定性や活動制限に関わる機能障害、対象者の生活環境や個人特性を考慮したうえで、適切な負荷と運動量を設定することが重要です[3]。
そして、現在の能力と目標とのギャップを埋めるように、運動の内容や量を段階的に調整していくことが、効果的なプログラムデザインにつながります。
まとめ
運動療法は、単に決まったエクササイズを処方するものではありません。対象者の状態に応じて最適な運動を選択し、難易度や負荷を段階的に調整していく臨床的な意思決定プロセスです。
まず、治療手技やサポートを用いて可動性を獲得し、身体を動かしやすい状態をつくります。次に、バンドなどを用いて筋肉を活性化させ、自重運動によって正しい動作をコントロールする能力を身につけていきます。
さらに、正しい動作が安定して行えるようになった段階で、抵抗や外的負荷を加え、機能や身体能力を高めていきます。
このように、可動性の改善から筋の活性化、動作の習得、そして負荷を伴うトレーニングへと段階的に進めていくことが、運動療法の基本的な原則です。
対象者の身体レベルや機能障害に合わせて「ちょうど良い」負荷と難易度を選択し、段階的に運動を統合していくことが、トレーナーやセラピストの専門的な役割といえます。
参考文献
Wendy K. Anemaet, et al. (2014). A Framework for Exercise Prescription. Topics in Geriatric Rehabilitation, 30(2), 79-101.
キスナー, C. (2023). 最新運動療法大全 I 基礎編(第6版). 医歯薬出版, p.2 より引用・一部改変。
Lori Thein Brody. (2012). Effective Therapeutic Exercise Prescription: The Right Exercise at the Right Dose. Journal of Hand Therapy, 25, 220-232.





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