ペインフルアーク・テスト(Painful Arc Test)で何がわかる?肩関節疼痛の評価ポイント
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更新日:4 日前
はじめに
肩関節疾患の評価において、挙上動作中の疼痛出現パターンを観察するペインフルアーク・テスト(Painful Arc Test)は、最も基本的で臨床でも広く用いられるスクリーニングテストの一つです。
しかし、このテストが陽性であった場合に何を意味するのかを、単に「肩が痛い」という所見として捉えるだけでは不十分です。
挙上角度と疼痛出現の関係から、どの組織に負荷がかかっているのかを推測するためには、肩関節のバイオメカニクスや研究知見に基づいた解釈が求められます。
この記事では、ペインフルアーク・テストの定義を整理したうえで、肩峰下インピンジメントおよび肩鎖関節(AC関節)病変の評価における解釈のポイント、さらに診断精度に関する研究知見について、文献をもとに整理して解説します。
ペインフルアーク・テストの定義とバイオメカニクス
ペインフルアーク・テストは、患者が腕を側方から能動的に挙上(外転)する過程で、特定の角度範囲で疼痛が出現するかを評価する検査です[1]。
ペインフルアーク・テストの実施手順は以下の通りです[2]。
実施手順

患者に、腕を体側に下ろした安静時の姿勢から、腕を横方向へ挙上(外転)してもらいます。
その過程で、痛みが出現する角度と消失する角度を観察し、記録します。
評価で見抜くべき3つの観察ポイント
疼痛は多くの場合、上肢を下ろすときよりも重力に抗して挙上するときに強く、また他動外転よりも自動外転の際に強くなる傾向があります。
運動時の疼痛が非常に強い場合、患者は痛みを軽減するために前方から上肢を挙上したり、僧帽筋上部線維や肩甲挙筋を使って肩をすくめるような代償動作を示すことがあります。
また、肩甲骨を内転させて烏口肩峰下腔をわずかに拡大することで、疼痛の軽減を図る場合もあります。
ペインフルアーク・テスト:兆候と考えられる要因
主な兆候と代償動作 | 考えられる要因 | 結果と解釈 |
シュラグ・サイン(肩すくめ) | 腱板広範囲断裂、凍結肩(肩関節周囲炎)、肩関節症 | 三角筋の強力な上方引き上げに対し、骨頭を下方へ抑え込む腱板(求心位保持)が機能しないあるいは、関節包の下方組織(腋窩嚢など)が硬く縮んでいるため、骨頭が関節の中で動けず、肩甲骨と上腕骨が一体化して肩甲骨ごと持ち上げて代償している。 |
降ろす際(下降時)の痛み・ぎこちなさ | 腱板の機能不全、肩甲骨の運動機能障害 | 遠心性収縮によるコントロールが効かず、骨頭や肩甲骨の安定性が失われている。 |
肩甲骨を後退させると痛みが減る | 肩甲骨の不安定性 | 肩甲骨を意図的に安定させることで、烏口肩峰下のスペースが一時的に拡大している。 |
姿勢による胸椎の可動域制限 | 不良姿勢(猫背・巻き肩) | 肩甲骨が前傾・内旋することで肩峰下腔が狭まり、機械的な衝突が起きやすくなっている。 |
解剖学的・生理学的背景
ペインフルアークは以下の2つの異なる角度範囲によって、疑われる病態が分類されます。
肩関節外転60°〜120°
この範囲で生じる疼痛は、主に肩峰下インピンジメント(Subacromial impingement)を示唆する所見とされています。
外転が120°を超えると大結節が肩峰下を通過するため、軟部組織の圧迫が軽減し、疼痛は消失または軽減するのが典型的なパターンです。
肩関節外転170°〜180°(最終域)
一方、挙上の最終域で生じる疼痛は、肩鎖関節(AC関節)病変を示唆する可能性があります[2]。
この段階では肩甲骨の上方回旋や後傾が大きくなるため、肩鎖関節に圧縮および剪断ストレスが加わりやすくなり、その結果として疼痛が生じると考えられています。
肩峰下インピンジメントにおける臨床的意義
肩峰下インピンジメントに対するペインフルアーク・テストの信頼性と妥当性については、多くの研究がなされています。
診断精度(感度と特異度)
評価指標 | 数値 |
感度(Sensitivity) | 0.33〜0.71 |
特異度(Specificity) | 0.69〜0.81 |
陽性尤度比(+LR) | 2.25 |
陰性尤度比(-LR) | 0.63 |
(出典:Hegedus et al. 2012 [3])
これらの数値からペインフルアーク・テスト単独で確定診断を下すことは推奨されず、他のテストと組み合わせて評価することが重要です。
臨床実践への応用:テスト・クラスターの重要性
Michenerら(2009)の研究では、単独のテストよりも複数のテストを組み合わせる(テスト・クラスター)ことで、診断精度が劇的に向上することが示されています。
肩峰下インピンジメントを疑う場合、以下の5つのテストのうち3つ以上が陽性であれば、肩峰下インピンジメント(SIS)を正しく検出する可能性(診断の支持)が高まることを示しています。[4]。
肩鎖関節(AC関節)異常の特定と鑑別
挙上最終域(170°〜180°)での疼痛は肩鎖関節由来とされますが、臨床では他のテストとの照らし合わせが不可欠です[5]。
肩鎖関節の評価指標
ルールイン(確定診断)を目的とする場合 |
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ルールアウト(除外診断・スクリーニング)を目的とする場合 |
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臨床上の注意点
テストを組み合わせて評価することで、単独のテストよりも診断の精度は高まるとされています。
しかし、最も有効とされる組み合わせを用いた場合でも、それだけで診断を確定したり除外したりできるほど診断確率が大きく変わるわけではないことが分かっています。
つまり、身体テストの結果だけで原因を断定するのではなく、問診や動作観察、他の評価結果と合わせて総合的に判断することが重要です。
まとめ
ペインフルアーク・テストは、肩関節挙上という日常的かつ機能的な動作の中で、肩関節の病態を推測するために臨床でよく用いられる評価の一つです。
一般的に、60°〜120°の範囲で生じる疼痛は、肩峰下組織の関与を示唆する可能性があります。一方、170°〜180°付近の最終域で生じる疼痛は、肩鎖関節(AC関節)病変の可能性が考えられます。
しかし、ペインフルアーク・テストは単に「陽性か陰性か」を判定するためのテストではありません。どの角度で痛みが出現し、どの角度で消失するのか、さらにその際に肩甲帯の代償動作がどのように現れているのかを観察するための重要な評価でもあります。
このテストを包括的な評価の一部として位置づけることで、他のインピンジメントテストや触診、問診などの情報と組み合わせて解釈することで、臨床推論の精度を高めることができます。
参考文献
Magee DJ, Manske RC. Orthopedic Physical Assessment. 7th Edition. 2020. Elsevier. Chapter 5: Shoulder.
ペインフルアークテスト(Painful Arc Test). YouTube. https://youtu.be/rQClGnXfeqk(最終閲覧日:2026年3月16日)



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