マッスルインバランスとは?上位交差性症候群・下位交差性症候群の捉え方と評価の進め方
はじめに
巻き肩や頭部前方位に対して胸筋をストレッチして下部僧帽筋を鍛える、反り腰に対して腸腰筋を伸ばして殿筋や腹筋を鍛える。
このように、姿勢の特徴から硬くなっている筋や弱くなっている筋を考え、エクササイズを選択することがあります。
こうした考え方の背景にあるのが、Janda(ヤンダ)が提唱したマッスルインバランスです。
その代表的なパターンとして、上位交差性症候群(UCS:Upper Crossed Syndrome)と下位交差性症候群(LCS:Lower Crossed Syndrome)があります。
ヤンダは、筋の機能障害には一定の傾向があり、筋によって硬くなりやすい、弱くなりやすいといった特徴があることを示しています。
こうした筋機能の変化が一定の組み合わせで現れ、姿勢や運動パターンにも影響するというのが交差性症候群の基本的な考え方になります。
では、巻き肩や反り腰といった姿勢がみられた場合、その特徴だけから「この筋が硬い」「この筋が弱い」と判断してよいのでしょうか。
実際には姿勢だけで筋の硬さや弱さ、痛みの原因まで特定できるわけではありません。
本記事では、マッスルインバランスの考え方から、上位・下位交差性症候群の特徴、痛みとの関連性、そして機能評価やエクササイズにどのようにつなげていくのかをわかりやすく解説します。
マッスルインバランスとは何か?
マッスルインバランスとは、筋の硬さや弱さなどによって、筋同士の機能的なバランスが崩れた状態を指します。
ヤンダは、筋の機能障害には一定の傾向があり、筋によって硬くなりやすい筋と弱くなりやすい筋があると捉えました。

この違いを説明するために用いられるのが、緊張性システム(Tonic System)と相動性システム(Phasic System)という分類です[1]。
分類 | 特徴 |
緊張性システム | 姿勢の保持などに関わる筋が多く、機能障害が生じると筋緊張が高まり、硬く・短縮しやすい傾向があります。また、動作時には過剰に活動しやすく、比較的筋力が保たれやすいとされています。 |
相動性システム | 身体を動かしたり姿勢を調整したりする筋が多く、機能障害が生じると筋活動が低下し、弱くなりやすい傾向があります。また、緊張性システムと比較して萎縮しやすいとされています。 |
こうした筋機能のアンバランスが姿勢や運動パターンに影響し、「硬くなりやすい筋」と「弱くなりやすい筋」が一定のパターンで組み合わさったものが、上位交差性症候群と下位交差性症候群になります[1]。
では、そもそもなぜ一部の筋では緊張が高まり、別の筋では働きが低下するのでしょうか。
この背景を理解するうえで重要になるのが、痛みと神経系の関係です。
なぜ、マッスルインバランスが生じるのか?

ヤンダは、筋骨格系の痛みを、痛みが出ている組織だけの問題ではなく、神経系を含めた身体全体の機能の問題として捉えました。
例えば、身体のどこかに痛みや炎症が起こると、その情報が神経系に伝わり、身体は痛みを避けるように筋の働きを変化させます。
その結果、一部の筋では緊張が高まり、別の筋では働きが低下するなどのマッスルインバランスが生じ、身体はその機能低下を補うように動き方を変えていきます。
例えば、本来は股関節で行いたい動きを腰で補うなど、痛みや機能低下を避けるための代償的な動きがみられるようになります。
このような動きを繰り返していると、その動き方が身体に定着し、姿勢や運動パターンそのものが変化していきます。
例えば、本来は股関節で行う動きを腰で補うなどの代償動作が繰り返されると、その動きが次第に定着し、姿勢や運動パターンにも変化が生じます。
その結果、特定の関節や筋への負担、神経系への感覚入力にも影響し、再び痛みや筋活動の変化につながるという悪循環が生じるとヤンダは考えました。
さらに、特定の関節や筋への負担や、身体から神経系に伝わる感覚情報にも影響し、再び痛みや筋活動の変化につながるという悪循環が生じると考えられています。
上位交差性症候群(UCS:Upper Crossed Syndrome)とは?
上位交差性症候群(UCS:Upper Crossed Syndrome)は、頚部から肩甲帯にかけてみられる特徴的なマッスルインバランスです。

筋機能の傾向 | 主な筋群 |
硬くなりやすい筋 | 後頭下筋群、上部僧帽筋、肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋 |
弱くなりやすい筋 | 頚部深層屈筋群、菱形筋、中部・下部僧帽筋、前鋸筋 |
こうした筋機能のアンバランスに伴い、頭部前方位、胸椎後弯の増加、肩の前方突出、肩甲骨の位置や運動の変化などがみられることがあります。
下位交差性症候群(LCS:Lower Crossed Syndrome)とは?
下位交差性症候群(LCS:Lower Crossed Syndrome)は、腰椎・骨盤・股関節周囲にみられる特徴的なマッスルインバランスです。

筋機能の傾向 | 主な筋群 |
硬くなりやすい筋 | 脊柱起立筋群、腰方形筋、腸腰筋、大腿直筋など |
弱くなりやすい筋 | 腹筋群、大殿筋、中殿筋など |
下位交差性症候群(LCS)は、一般的に骨盤前傾や腰椎前弯が強くなった、いわゆる「反り腰」に近い姿勢としてイメージされることが多いですが、Jandaの分類では大きく2つのタイプに分けられます。

1つは、骨盤前傾と腰椎前弯の増加がみられるタイプです。
股関節屈筋群の硬さなどによって股関節を十分に伸展できない場合、骨盤前傾や腰椎伸展によって動きを補うことがあります。
その結果、腰椎だけでなく胸腰椎移行部にも負担が集中しやすくなると考えられています。
そして、もう1つは、腰椎の前弯が少なくなるタイプです。
このタイプでは、骨盤が前方へ移動し、腰椎の前弯が減少する、いわゆるスウェイバックに似た姿勢がみられます。
バランスを保つために、胸椎の後弯が強くなったり、頭部が前方へ移動したり、膝を過伸展させたりするなど、身体のさまざまな部位で姿勢を補う特徴がみられます。
このように、上位・下位交差性症候群にはそれぞれ特徴的な筋機能や姿勢のパターンがあります。
しかし、ここで注意したいのが、こうした姿勢がみられることと、実際にその筋が硬い・弱いことは同じではないという点です。
では、交差性症候群を実際の評価ではどのように活用すればよいのでしょうか?




