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ドローインとブレーシングの違いとは?共同収縮から考える体幹安定化のポイント

  • 11 時間前
  • 読了時間: 6分

はじめに


腰痛予防や体幹機能の向上を目的とした運動指導において、ドローイン(Draw-in)と「ブレーシング(Bracing)」は頻繁に取り上げられるテーマです。


しかし、リハビリや運動現場では「どちらが良いのか」という議論に終始してしまうことも少なくありません。


ここで重要視点は、ドローインとブレーシングを対立する概念として捉えることではなく、それぞれの役割や特徴を理解し、目的や状況に応じて活用することにあります。


ドローインは腹横筋をはじめとした深層筋群への意識を高める手段として有用ですが、実際の動作や日常生活、スポーツ場面では脊柱に加わるさまざまな外力に対応する必要があります。


そのため、局所筋の活動だけでなく、体幹全体で脊柱を安定させるブレーシングの獲得が重要となります。


本記事では、なぜブレーシングが体幹機能の向上や脊柱の動的安定性において重要なのかを整理しながら、ドローインとの違いやそれぞれの役割について解説します。



腹部構造の理解:腹腔圧を高める「風船」のメカニズム


体幹の安定化について説明するとき、「腹部は風船のような構造である」という考え方は、腹腔内圧(IAP:Intra-Abdominal Pressure)どのように脊柱の安定性に関与しているのかを理解するうえで有用です。


腹部の内部には内臓が存在し、その後方には脊柱があります。この構造が安定性を保つためには、風船のように内部の圧力を適切に維持する必要があります[1]。


風船が潰れないためには全方向からの支持が必要


風船は一部分だけを押さえても安定しません。全方向から均等に支えられることで内部の圧力が維持され、形状を保つことができます。


同様に腹部も、腹腔内圧を維持しながら脊柱を安定させるためには、コルセットのように全方向から支える構造が必要です。



腹部の壁を構成する主な体幹筋群


腹部を支える壁を構成しているのは、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、多裂筋などの体幹筋群です。


腹部の壁を構成する筋群を示す解剖図。骨格に赤い筋が重ねられ、外腹斜筋・腹直筋・横隔膜などが前後左右から注記されている。

これらの筋群は単独で働くのではなく、互いに協調しながら腹部全体を支えることで腹腔内圧を高めています。その結果、脊柱に対する支持機能が向上し、外部からの負荷に対して安定した姿勢を維持しやすくなります。



ドローイン(Draw-in)とブレーシング(Bracing)の違い


どちらも体幹の安定化を目的としたアプローチとして紹介されますが、ドローイン(Draw-in)とブレーシング(Bracingでは目的や筋活動の特徴が異なります。


ドローインは、お腹を凹ませることで腹横筋(TrA:Transversus Abdominis)を中心とした深層筋群の活動を促す方法です。主に体幹深層筋への意識づけや運動学習を目的として用いられます[2]。


研究では、手足を動かす際、腹横筋は他の体幹筋や四肢の筋肉に先行して活動することが報告されています[3]。


腹横筋は体幹の深層でコルセットのように腹部を包み込み、脊柱の安定化に寄与すると考えられています。


腹筋の使い方を比較する図。左は仰向けで膝を立てたドローイン、右はプランク姿勢のブレーシング。矢印と説明文付き。

このような研究結果を背景に、腹横筋は体幹安定化において重要な筋として注目されるようになり、腹横筋を選択的に活動させるドローインが広く活用されるようになりました。


一方、ブレーシングはお腹を凹ませるのではなく、脊柱のニュートラルポジションを保ちながら腹部全体を固めるように収縮させる方法です。


腹横筋のみを選択的に働かせるのではなく、横隔膜、腹筋群、骨盤底筋群、脊柱起立筋群などが協調して収縮することで腹腔内圧を高め、脊柱の安定性を向上させます。


このように、ドローインが特定の筋の活動を促すアプローチであるのに対し、ブレーシングは体幹全体を協調的に機能させるアプローチと捉えることができます。



共同収縮(co-contraction)とは何か?


Bracingの特徴は、腹横筋だけを選択的に活動させるのではなく、複数の体幹筋群を同時に働かせることにあります。このように複数の筋が協調して活動する状態を共同収縮(co-contraction)と呼びます。


日常生活やスポーツ動作では、身体に多方向から負荷が加わります。そのため、特定の筋のみを活動させるだけでは十分な安定性を確保できない場合があります。


ブレーシングは体幹全体の共同収縮を通じて腹腔内圧を高め、脊柱の安定性を向上させるための安定化戦略です。


ドローインは体幹深層筋への意識づけや運動学習として有用ですが、最終的には体幹全体の共同収縮を伴うブレーシングへ発展させていくことが重要なポイントです。


ブレーシングに関する主な共同収縮筋群を示す解剖図。横隔膜、脊柱起立筋群、腹筋群、骨盤底筋群のラベル付き側面図。Physioplus。

表1:ブレーシングに関与する主な共同収縮筋群

構造

主な筋群

役割

前方および側方

腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋

腹腔内圧を高め、前方・側方から脊柱を支持する

後方

脊柱起立筋群、多裂筋

後方から脊柱を支持し、姿勢を安定させる

上方

横隔膜

呼吸と連動しながら腹腔内圧を調整する

下方

骨盤底筋群

腹腔内圧を受け止め、骨盤と脊柱の安定化に寄与する


リハビリやエクササイズ指導時のポイント


実際の運動指導において、ドローインだけに偏った指導では、日常生活動作やスポーツ動作のような外力が加わる場面で十分な脊柱の安定性を獲得できない可能性があります[3]。


そのため、ドローインから、ブレーシングによる全体的な安定化へ発展させていくことが重要です。


指導時のポイント1:ドローインによる体幹深層筋の意識化

ドローインで体幹深層筋を意識する説明スライド。仰向けで膝を立てた男性の腹部に矢印が示され、右に呼吸と腹横筋の説明文、下部にPhysioplusロゴ。

まずは背臥位などの低負荷環境で、腹横筋や骨盤底筋群への意識づけを行います。ここでは筋力強化というよりも、体幹深層筋の活動を認識し、自らコントロールできるようになることが目的です[3]。


指導時のポイント2:ニュートラルポジションの獲得


次に、骨盤や脊柱のニュートラルポジションを理解し、自ら調整できるようにします。体幹の安定性は筋活動だけでなく、適切なアライメントの上に成り立つためです。



指導時のポイント3:ブレーシングによる共同収縮の獲得


ニュートラルポジションを維持したまま、腹部全体を均等に収縮させて腹腔内圧を高めます。


このとき、お腹を凹ませるのではなく、腹部全体で外力に抵抗するような感覚を獲得することが重要です。


また、腹筋群だけでなく、脊柱起立筋群や多裂筋群などの背部筋群も協調して活動していることを確認します。こうした共同収縮によって脊柱は前後から支持され、より高い安定性を獲得することができます[3]。


スクワットやデッドリフトなどの高負荷動作はもちろん、立ち上がりや歩行といった日常生活動作においても、このブレーシングによる全方位的な安定化戦略は重要な役割を果たします。


まとめ


ドローイン(Draw-in)とブレーシング(Bracing)は、どちらか一方が優れているものではなく、目的や状況に応じて活用すべき相補的なテクニックです。


腹横筋を中心としたドローインは、体幹深層筋への意識づけや運動学習として有用ですが、実際の動作場面ではそれだけで十分とは限りません。


重要なのは、脊柱のニュートラルポジションを保ちながら、腹筋群、脊柱起立筋群、多裂筋群などを協調して働かせるブレーシングを獲得することです。


このような共同収縮を獲得することで、外力に対する脊柱の安定性を高めることができます。



参考文献

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