患者やクライアントの主体性を引き出すカウンセリングとは?:明日から使える3つの基本テクニック
- フィジオプラス

- 2025年11月27日
- 読了時間: 8分
はじめに
評価や治療介入、運動指導などの「テクニカルなスキル」は、知識を積み重ねることで確実に向上します。しかし、現場においてこれら以上に重要でありながら、最も過小評価されているのが「聞く技術」です。
なぜなら、クライアントの主体性を引き出すためには、相手の「価値観」を理解することが何よりも重要だからです。
しかし、臨床や運動指導の現場で私たちが陥りがちなことは「正しいこと」を伝えれば相手は変わると思い込んでしまうことです。しかし、いくら専門的に「正しい」指導を行ったとしても、それが相手の価値観に合致していなければ、相手は行動してくれません。
「正しいことを教える」ことと「実際に相手に動いてもらう」ことは別物です。 相手の価値観を深く理解し、自ら進んで行動する「主体性」を引き出すために、「聞く技術」は専門家にとって必須のスキルです。
この記事では、カウンセリングの技術を理解し明日からの臨床・指導現場で即使える実践的なアプローチを分かりやすく解説していきます。
エビデンス(根拠にもとづいく実践)とカウンセリングの重要性
リハビリや運動指導において、全てのスタートラインは患者やクライアントの「現状把握」にあります。これは単に既往歴や痛みの有無といった情報を集める作業ではありません。
患者やクライアントが何を大切にし(価値観)、何を求めているのか(ニーズ)を深く理解するプロセスになります。
この考え方は、根拠に基づく実践(以下、 EBP:Evidence-Based Practice)の核となるものです。EBPは、以下の3つの要素を統合して意思決定を行うアプローチです。
Evidence (科学的根拠): 最新の研究論文などから得られる客観的な情報
Clinical Experience (専門家の経験): あなたが臨床で培ってきた知識と技術
Patient Values (患者の価値観): クライアントのニーズ、期待、生活背景
重要なのは、EBPとは単に論文の情報をそのまま実践することではなく、これら3つの要素を統合的に考慮する思考プロセスそのものであるということです。
そして、この中で特に見落とされがちなのが「患者の価値観」であり、これを引き出す唯一の方法が、質の高いコミュニケーションとカウンセリングなのです。

EBPで最も重要な部分は医療従事者と患者とのコミュニケーションスキルです。
コミュニケーションの質が、クライアントの満足度や結果に直接影響することは、数多くの研究で示されています。
このEBPの根幹である「患者の価値観」を深く引き出し、尊重するための具体的なツールが、本稿で紹介する3つのカウンセリングテクニックです。
「自主性」から「主体性」へ:クライアントを本当の意味で動かすアプローチとは?
患者やクライアントの行動変容を考える上で、「自主性」と「主体性」の違いを理解することです。
自主性は指示された課題をこなす状態であるのに対し、主体性は課題の必要性を自分ごととして理解し、自らの意思で取り組む状態を指します。
この主体性を引き出すためには、単に客観的な評価結果を伝えるだけでなく、問診情報(クライアント自身の言葉)と評価結果を関連付けてフィードバックすることが重要です。

これにより、クライアントは治療や指導の必要性を深く納得し、自発的な行動へと繋がります。

患者やクライアントが専門家からの効果的な質問に答える過程で、自分自身の考えや問題、信念に自ら気づき、思考が整理されていくことをオートクライン効果と呼びます。カウンセリングは、このオートクライン効果を意図的に促すためのテクニックでもあります。
臨床で使える3つの基本カウンセリングテクニック
テクニック1:聞く
ここからは具体的なカウンセリングテクニックの方法について紹介します。

全てのコミュニケーションは「聞く」ことから始まります。信頼関係(ラポール)を築き、クライアントが安心して話せる場を作るための基盤です。話の聞き方には、以下の5つのレベルがあります。
無視する
聞いているふりをする
都合の良い部分だけ聞く
熱心に聞く
相手の立場に立って聞く
特に「熱心に聞く」「相手の立場に立って聞く」ことは、主体性を高めるために重要な聞く態度です。他にも聞くための具体的なテクニックとして「ペーシング」と「受け止め」を使いこなすことがあります。

ペーシング (Pacing) 相手の話すスピードや状態にペースを合わせることで一体感を生み出し、安心感を与える技術です。以下の2種類があります。
アクティブペーシング (Active Pacing): 相手の身振り手振りや姿勢といった非言語的な行動に合わせます。
スピークペーシング (Speak Pacing): 相手の話すスピード、トーン、使う言葉といった言語的な表現に合わせます。
受け止め方 (Receiving Techniques) 相手の話をしっかり聞いていることを示すための応答技術です。

積極的受け止め (Active Receiving): 相手の言葉(特に主訴、時期、数字、感情的なフレーズ)をそのまま繰り返します。「1ヶ月前から首が重だるいんですね」のように伝えることで、相手は「自分の話を正確に聞いてもらえている」と強く感じることができます。
消極的受け止め (Passive Receiving): 「はい」「そうなんですね」といった相槌を使い、話の流れを止めずに続きを促します。
テクニック2:質問する
質問をする技術は、患者やクライアントにとって自己理解を深めると同時に、問題の核心に迫る手助けをするために重要な要素です。質問は主にオープンクエッションとクローズドクエッションの二つの形式があります。

オープンクエッション(開いた質問) | 回答者が自由に詳しく答えることができる質問形式。この方式では、話し手の感情や考えを深く掘り下げ、広範な情報を得る場合に適している質問方法。 |
クローズドクエッション(閉じた質問) | 回答者が「はい」「いいえ」または限定された選択肢から回答する質問形式。この方式では具体的な情報を素早く得るのに役立ち、状況の確認や意思決定を迅速に行う場合に適している質問方法。 |
このようにこれら質問の使い分けがポイントです。実践的なコツは、最初にクローズドクエッションで具体的な事実(痛みの有無など)を確認し、深掘りしたい重要なポイントについてオープンクエッションで詳しく聞くように意識してみましょう。
テクニック3:伝える
どんなに正確な情報でも、伝え方一つで相手の受け取り方は大きく変わります。評価結果やアドバイスを伝える際は、メッセージの主語を意識することが重要です。
YOUメッセージ | 話し手が聞き手に直接的に言及する伝達方法。この方法ではアプローチは相手の行動や状態を明確に指摘するため、問題がはっきりしている場合に効果がある一方、攻撃的と受け取られるリスクがあり、防御的な反応を引き出すことが多く限定的。 |
WEメッセージ | 話し手と聞き手が共通の経験や感情を共有していることを示す伝達方法。例えば、自分だけがその状況を経験しているわけではないと理解し、安心感を得られるように促す場合に活用する。共感を促し、参加や協力、支持を求める状況で特に効果的な方法。 |
Iメッセージ | 話し手が自分の感情や考えを表現するときに用いる伝達方法。自分の感情や反応を中心に話を進めることで非攻撃的な伝達方法となり、自分の感じていることをオープンにするため、対話を促進しやすく、相手に受け入れられやすい利点がある。 |

「Iメッセージ」は、自分の考えや感じていることをオープンにしながら、相手を非難することなく伝えられる方法です。相手に自己防衛を促すことがないため、受け手は安心して話を聞くことができ、こちらの意図も理解しやすくなります。
まとめ
クライアントの身体を評価し、正しい知識を「教える」だけでは、専門家としての役割を十分に果たしているとは言えません。
今回紹介した「聞く」「質問する」「伝える」という3つの基本的なカウンセリングテクニックを理解することは、患者やクライアントの主体性を引き出すための重要な鍵になります。
これらを適切に使い分ける対応力こそが、信頼関係を深め、その人に本当に必要なアプローチを導き出すことにつながります。


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