はじめに
運動指導で患者やクライアントに提供するエクササイズプログラムを効果的に実施するためには、「定数」と「変数」を理解した上で対象者に合った適切な運動処方を提供できることが鍵になります。
特に運動指導を処方するトレーナーやセラピストは、対象者の目的や体力レベルに応じて定数を正しく処方した上で変数を工夫し、トレーニング効果を最大化する必要が求められます。
この記事では、スクワットエクササイズを例に挙げて、運動指導におけるエクササイズ変数を設定するためのヒントについてご紹介していきます。
エクササイズにおける「定数」と「変数」の違い
まずはエクササイズにおける「定数」と「変数」の用語について説明します。(図1)
定数とは変更できない要素を指します。例えば、スクワット種目を例にした場合、スクワットエクササイズ種目そのものを変更してしまうと違うエクササイズ種目になってしまいます。そのため、この場合スクワットエクササイズ種目が定数となります。
一方、変数とは調整可能な要素を指します。スクワットを例にした場合、スクワットエクササイズ種目を行った時の回数やセット数、重量などは目的に応じて調整可能なため変数となります。
一般的なエクササイズ変数の設定方法
エクササイズ変数を設定する方法は対象者の目的に合わせた設定方法が一般的に知られています。
この方法ではエクササイズ変数として負荷や回数、セット数を対象者の目的に合わせて調整する方法です。
例えば、筋力を向上させるためには高負荷で低回数(1〜6回)を2〜6セット行い、筋肥大(筋肉量を増加させる)では 中程度から高負荷を8〜12回、3〜6セット行います。また、筋持久力強化では軽負荷で高回数(15-20回程度)を2〜3セット行うような変数の設定を行います。[1]
このようなトレーニングの目的に合わせた変数の設定方法はトレーニングプログラムを効果的に行うための基本事項として運動指導の教科書に記載されていますが、実際の運動指導の現場では重量を扱う以前に適切なフォームで実施できるかどうかが優先されます。
さらに、自重でのエクササイズ種目そのものが出来なかった場合、上記のような変数の方法では上手く調整することができない場合があります。
そのため、今回は上記の一般的な基本事項を理解した上で自重でのスクワットエクササイズを例にエクササイズ変数の設定方法について解説していきます。
スクワットエクササイズにおける変数の考え方
自重のスクワットエクササイズにおける変数の考え方を説明する前に、通常のスクワットエクササイズの実施方法について確認していきましょう。
実施手順(動画):
足を肩幅かそれより少し広めに開いて立ちます。この時足先は少し外側に向けます。
股関節を折りたたみ、お尻を後ろに突き出すようにして、膝を曲げゆっくりとしゃがみます。
太ももが床と平行になるか、それより少し手前までしゃがみ込みます。
膝を伸ばしながら、元の立ち位置に戻ります。
実施上の注意点:
膝が内側に入っていないか
重心がかかとに寄ってしまったりつま先に乗っていないか
体幹が前に傾きすぎていないか
エクササイズ変数を設定する前に、通常の方法でのエクササイズが適切に行えているかどうかを確認することが重要です。通常のエクササイズ方法を正しくできていないと重量を増やしたり、難易度を上げることはできません。
この通常の方法をベースラインに設定した場合の変数の考え方について説明していきます。
スクワットエクササイズを例とした変数設定の考え方
エクササイズ変数の設定は、単純にダンベルやバーベルを持って重量を変える方法だけではなく、動きの幅をコントールしたり、動きのリズムやテンポを変える方法などがあります。(図3)
もし、通常のスクワットが出来ない場合、エクササイズ種目を変える前にエクササイズの難易度を下げた変数を設定して処方しできるかどうかを確認していく必要があります。
一方、スクワットエクササイズのフォームが適切に行うことができている場合などでは、重量を用いることなく、テンポや速さ、バランスの要求度などの変数を変えることで通常の方法よりも難易度を高くすることができます。
スクワットエクササイズの変数を設定する具体的な方法
上の動画は通常のスクワットエクササイズ(ベースライン)に対してエクササイズ変数を設定し、エクササイズの難易度を段階的に示したものになります。
Hettingerの研究によれば,筋力維持には最大筋力の20〜30%以上の負荷,筋力増強には最大筋力の40〜50%以上の負荷が必要と報告されています。 [2]
そのため、健康な人に対してパフォーマンスを向上させるために行う場合では冒頭で紹介した一般的な変数(負荷や回数、セット数を調整する方法)を設定する方法で負荷を調整し、目的に合ったトレーニング処方を提供することに問題はありません。
しかし、通常の方法(ベースライン)では問題なく適切に行うことができるけど、重量を加えるとフォームが崩れてしまう場合や、疾患のある方、高齢者に対する運動指導などでは今回紹介したエクササイズ変数を設定することで対象者のレベルに合わせた運動処方が行うことが可能です。
今回の記事では自重でのスクワットを例にエクササイズ変数の設定のヒントについて紹介しましたが、このような基本的なエクササイズでも、環境や条件などの変数を調整することで、対象者に合わせた運動指導を提供することができます。
運動指導の現場でエクササイズ変数を工夫しながら対象者に合った適切な運動負荷とエクササイズ指導を処方するヒントになれば幸いです。
参考文献
Haff, G.G. and N.T. Triplett:ストレングストレーニング&コンディショニング第3版,
HettingerT著書,猪飼道夫,松井秀治訳:アイソメトリックトレーニング― 筋力トレーニングの理論と実際,大修館書店,東京,1970.
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