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コンディション評価に基づく運動処方とは?運動継続と成果を高めるトレーニング指導の方法

  • 5 日前
  • 読了時間: 8分

はじめに


リハビリや運動指導において、目標達成のために重要な要素の一つは「継続してもらうこと」です。


効果を出すことや症状を改善させることは重要ですが、それらの成果も継続されなければ十分に発揮されません。


では、なぜ継続することが難しくなるのでしょうか。


その一因として、「その日の状態に指導内容が適合していない」ことが挙げられます。


体調や疲労の程度、気分や集中力といった心身の状態は日々変化しますが、これらの変化に十分に対応できていない場合、運動に取り組むこと自体の負担が増大し、結果として継続が困難になることがあります。


このような背景を踏まえると、トレーナーやセラピストの専門性の一つは、その人の「その時点の状態」に応じて運動処方を調整できる点にあるといえます。


運動指導とは、あらかじめ設定したプログラムを一律に提供するものではなく、個々の体調や状態に応じて内容や負荷を適切に調整することが重要です。


この記事では、セッション開始前のコンディション評価(体調チェック)を起点に、継続しやすい運動処方をどのように構築するかについて、行動心理学およびスポーツ科学の視点から整理し、リハビリや運動指導の現場で活用できる方法を解説します。



この記事の内容を音声で聞く


運動を継続するための3つの要素とは?


ジムでダンベルを持つ男性とバーベルを持ち上げる男性。背景に「楽しさ」「具体的な目標設定」「効果の実感」が重要と説明。

運動を継続してもらうためには、「楽しさ」、「具体的な目標設定」、「効果の実感」が重要であるとされています[1]。


これらの要素は、単なる経験則ではなく、行動変容理論や自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)といった理論においても重視されている考え方です。


特に自己決定理論では、人が自ら行動を続けるためには「やらされている」という感覚ではなく、「自分で選んで取り組んでいる」という感覚、すなわち内発的動機付けが重要であるとされています[2][3]。


楽しさ

運動中や運動後に「楽しい」「気持ちよい」と感じることです。これにより運動への前向きな感情が生まれ、自発的な取り組みにつながります。

目標設定

目的に対して、具体的な行動の目安を定めることです。行動が明確になることで、継続しやすくなります。

効果の実感

運動による変化や成果を確認することです。自分の行動の結果を実感することで、次の行動への意欲が高まります。


1回のトレーニングセッションで行う内容


コンディションに基づいた指導を実践するためには、セッションの流れを一定のフレームワークとして整理しておくことが重要です。


以下のプロセスを標準化することで、再現性の高い指導が可能になります。


トレーニング中の男性と指導するコーチ。左にトレーニングセッションの各ステップが箇条書き。明るい色調。

体調チェック:本人との対話やチェックリストを用いて、その日の状態を把握します。

トレーニングプランの共有:コンディションに基づき、その日の「目標」を再設定し、内容を共有します。

ウォームアップ:動作の質を確認しながら、身体を運動に適した状態へと切り替えます。

メインとなるトレーニング:コンディションに応じた強度設定でトレーニングを実施します。

クーリングダウン:回復を促しながら次回のセッションに備えます。



毎回のセッション時にコンディション評価を行う理由


セッション開始時の体調チェックは、単なる確認作業ではなく、指導の質を左右する重要なプロセスです。


その意義は大きく2つあります。


一つは、オーバートレーニングを防ぐためのリスク管理としての役割です。


もう一つは、その日の状態に適した負荷設定を行い、トレーニング効果を最大化するという積極的な役割になります。


コンディション評価における主観的指標の重要性


コンディション評価においては、睡眠の質や食事の有無、疲労感、意欲・やる気といった主観的指標(Self-report measures)が重要な情報となります。


これらの指標は、心拍変動などの客観的指標と比較しても、トレーニング負荷に対する心身の反応をより敏感に反映する可能性が示唆されています[4]。

睡眠の質

睡眠不足は認知機能の低下を引き起こし、反応時間や動作精度の低下を通じてフォームの乱れにつながる可能性があります[5]。 

食事(栄養)

食事が十分にとれていない状態で運動を行うと、エネルギーが不足し、思うように動けなくなります。特に、集中力やパフォーマンスの低下につながります。

疲労感

その日の体調や疲労の変化を把握しやすくなり、その人の状態に合わせてトレーニングの強度を調整することができます[6]。また、その場の変化だけでなく、「なぜ疲労が溜まっているのか」をヒアリングするきっかけにもなり、オーバートレーニングの予防にもつながります。

意欲・やる気

セッションに対する意欲ややる気を直接確認することで、運動に取り組もうとする意思の強さやモチベーションの程度を把握することができます。その結果に応じて、その人の状態に合わせた声かけや目標設定が可能となり、トレーニングへの参加や継続につなげやすくなります。



コンディション評価に基づいた運動処方の捉え方


コンディショニング評価の結果をもとに、その日の状態に合わせて運動内容をどのように調整するかについて、代表的な3つのケースに分けて解説していきます。



Case 01:体調は良好だが意欲・やる気が低いケース


ケース01:体調は良好だが意欲・やる気が低い。睡眠の質、食事、疲労感の評価が表形式で示される。背景は白。

  

その日の身体的な回復は問題ないものの、やる気や集中といった心理的な準備が整っていない場合には、無理に通常通り進めるのではなく、「自分で選んでいる感覚」と「すぐに効果を感じられる体験」をつくることが重要です。


具体的には、種目や進め方をすべて指導者が決めるのではなく、「今日はAとBのどちらから始めますか?」といった形で選択肢を提示し、本人に選んでもらいます。


これにより、受け身ではなく主体的に取り組みやすくなります。


さらに、セッションの序盤で「できた」「効いている感じがする」といった感覚を得やすい種目を取り入れることで、小さな成功体験を得やすくなります。


このように、最初に「やれた」という感覚を引き出すことで、その後のトレーニングへの意欲が高まり、セッション全体の質も安定しやすくなります。



Case 02:意欲はあるが睡眠不足・疲労がある場合   


ケース02の表:睡眠不足や疲労時の意欲に関する評価。カテゴリは睡眠、食事、疲労感、意欲。選択肢に強調あり。

その日の心理的なやる気は高いものの、疲労の蓄積などにより身体的な余力が低下している場合には、無理に高強度のトレーニングを行うのではなく、負荷を調整しながら回復を優先することが重要です。


このような状態で強度の高い運動を行うと、パフォーマンスの低下だけでなく、怪我のリスクが高まる可能性があります。


具体的には、予定していた最大筋力トレーニングは避け、低負荷・多回数のトレーニングや、可動域の改善を目的としたモビリティワークへと内容を切り替えます。


また、指導の際には「頑張りたい」という気持ちを否定するのではなく、その意欲を認めたうえで、長期的に見てパフォーマンスを高めるためには「あえて負荷を抑えること」が必要であることを丁寧に説明することが求められます。



Case 03:体調・意欲ともに良好な場合   


ケース03の表。睡眠、食事、疲労感、意欲に関する項目で、「眠れている」「食べた」「疲れていない」「高い」が選択されている。

その日のコンディションが良好で、心身ともに余力がある場合には、トレーニングによる適応を高めるチャンスです。


このような状態では、過負荷の原理に沿って、重量・回数・セット数のいずれかを段階的に増やし、これまでよりも少し高い負荷を与えていきます。


また、既存のメニューを繰り返すだけでなく、新しい動作パターンややや難易度の高い課題を取り入れることで、集中しやすい状態を引き出すことができます。


これにより、トレーニングへの没頭感や達成感が高まり、満足度の向上にもつながります。


その結果、次のトレーニングへの意欲にもつながります。


まとめ


リハビリや運動指導において、成果を引き出すためには「何を行うか」だけでなく、「いかに継続してもらうか」を考えることが重要です。


そのためには、あらかじめ決めたプログラムを一律に提供するのではなく、その日のコンディションに応じて運動内容や負荷を柔軟に調整していく必要があります。


本記事では、睡眠の質や食事の有無、疲労感、意欲・やる気といった主観的指標をトレーニング実施前に確認することで、その日の状態をより的確に把握し、適切な運動処方につなげることの重要性を示しました。


また、コンディションに応じてアプローチを変えることで、無理なく取り組める環境や成功体験を積み重ねることができ、結果として運動の継続と成果の向上につながります。


トレーナーやセラピストの専門性は、知識だけでなく、その日の状態を見極め、最適な判断を行う力にあります。


このようなコンディション評価を起点とした運動指導は、安全で効果的な介入を実現するための重要な考え方といえます。



参考文献


  1. 橋本公雄. (2010). 運動継続化の螺旋モデル構築の試み. 健康科学, 32, 51-62.

  2. Teixeira, P. J., et al. (2012). Exercise, physical activity, and self-determination theory: A systematic review. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity, 9(1), 78.

  3. Rhodes, R. E., et al. (2019). Factors associated with physical activity over the life course: A resistance-to-change perspective. British Journal of Sports Medicine, 53(1), 31-36.

  4. Saw, A. E., Main, L. C., & Gastin, P. B. (2016). Monitoring the athlete training response: subjective self-report measures a systematic review. Sports Medicine, 46(2), 281-291.

  5. Watson, A. M. (2017). Sleep and Athletic Performance. Current Sports Medicine Reports, 16(6), 413-418.

  6. Saw, A. E., Main, L. C., & Gastin, P. B. (2016). Monitoring the athlete training response: subjective self-report measures a systematic review. Sports Medicine, 46(2), 281-291.

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